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孤独死について「早くから考えておきなさい」ということか。インパクトあった。
バリバリのキャリアウーマンで生涯独身だった伯母が孤独死。黒いシミのような状態で発見された。衝撃を受けた山口鳴海(35歳独身)は婚活より終活にシフト。誰にも迷惑をかけず、ひとりでよりよく死ぬためにはよりよく生きるしかないと決意する―。
デビュー作『クレムリン』('10年/講談社)を皮切りに、『きみにかわれるまえに』('20年/日本文芸社)などユニークな作品を多数発表している作者が、今度は「老後」「就活」「孤独死」をテーマとして取り上げた作品で、2021(令和3)年・24回「文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞」受賞作。この第1巻は、「月刊モーニング・ツー」'19年9月号から'20年3月号に連載されたものに当たります。
最近作『なおりはしないが、ましになる』('21年/小学館)も、自身の発達障害を実録ドキュメンタリー風に扱ったものですが、この『ひとりでしにたい』も、30代後半になった自分自身が、いずれ"一人で死ぬ"かもしれないという漠然とした不安を抱えるようになったのが制作のきっかけで、描きながら、自身の「終活」について考え始めたといいます。
独身女性の「老後」や「終活」についてのエッセイ的な考察としては、社会の上野千鶴子氏の『おひとりさまの老後』('07年/法研)があり、75万部のベストセラーとなって「おひとりさま」ブームを巻き起こし、その後も続編的な本が数多く出されています。ただ、それら上野氏の本は、結構、40代より上の年齢層、もっと言えば、夫(妻)に先立たれるかもしれないということが現実味を帯びてきた人などが読んだりしているように思います。
『おひとりさまの老後』
早くから考えておくに越したことのないテーマですが、若い内はなかなかそうしたことを考える機会がないのではないかなあ。その点、この漫画は、軽いラブストーリーも入れて、若い人でもすっと入っていける作りになっているように思いました(そこを買われての文化庁メディア芸術祭「優秀賞」授賞なのだろう)。
とにかく、キャリアウーマンで生涯独身だった伯母が、風呂で湯に浸かったまま亡くなって数日間放置され、発見された時には湯船の中でドロドロの「スープ」になってしまっていたという話が、キャッチ的に凄まじく、インパクトあります。
主人公がそれを知って、「婚活」を飛び越して「終活」に奔るというのも納得でき、「老後」「就活」「孤独死」がテーマでありながら、「35歳の主人公」という枠組みを上手く作っているように思いました。
上野千鶴子氏だって、30代や40代のうちから終活を始めることは、決して早過ぎないとは言っていたかと思いますが、そうは言っても若い人はなかなか本気になってそうしたことを考えることはしないという、そうした問題を、「スープになってしまっていた伯母」というエグいエピソードを突きつけることでクリアしている印象を受けました。
でも、実際、孤独死は増加傾向にあり、東京都区部で発生した孤独死は2018年は5,513件で、うち65歳以上は約7割(3,867件)だったとのこと。風呂場での推定死亡者数は全国で年間約1万9000人で、交通事故の死亡者数が2839人(2020年警察庁発表による)なので、およそ6倍だそうです。
日頃我々の目につかなけれ新聞記事になることもないだけの話で、実は全然珍しいことでも何でもなくなっているのでしょう。自分も含め、人はもう少しこの問題について考えた方がいいのかも。そうしたことの契機になる漫画です。